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京都地方裁判所 昭和59年(行ウ)21号 判決

京都市左京区田中西大久保町一一

原告

竹内準三

右訴訟代理人弁護士

佐藤克昭

高田良爾

京都市左京区聖護院円頓美町一八

被告

左京税務署長

三村亨

右指定代理人

田中治

足立孝和

堀内和幸

戸根義道

西尾了三

藤島満

岸本卓夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五七年一二月一〇日付でした原告の昭和五四年分、昭和五五年分及び昭和五六年分の所得税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二主張

一  請求の原因

1  原告は、肩書住所地において建材(左官材料)販売業を営んでいる者であるが、被告に対し、本件係争年分の確定申告をした。

被告は、昭和五七年一二月一〇日付けで原告に対し更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件処分という)をした。

原告は、本件処分に対し、異議申立及び審査請求をした。

以上の経過と内容は、別表1記載のとおりである。

2  しかし、本件処分は、左の理由で違法であるから、取消を免れない。

(一) 本件処分には推計課税の必要がなかった。即ち、被告の部下職員は、原告に対する税務調査にあたり、調査の理由を開示せず、かつ、第三者の立会を拒んで十分な調査をしなかった。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得金額を過大に認定した。

3  よって、原告は被告に対し、本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

原告主張の右事実中、1の事実は認め、2の事実は争う。

三  被告の抗弁

1  被告の部下職員は、昭和五七年八月一八日から九回にわたって原告方に臨場するなどし、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めた。

しかし、原告は、第三者の立会いを求め、「申告額のどこに問題があるのか」、「帳簿書類等を提示すると必ず反面調査に行くから見せない」等と非協力的態度に終始し、帳簿資料の提示をせず、事業内容の説明をしなかった。

その為、被告はやむなく反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をしたのであって、本件処分に手続的瑕疵はない。

2  原告の本件係争年分の算出所得金額は、その売上原価に同業者率を適用して売上金額及び一般経費を算出し、別表2記載のとおりである。

(一) 原告の売上原価(仕入金額)は、別表3記載のとおりである。なお、原告は本件係争年分の棚卸高を明らかにしないところ、その事業内容及び規模に著しい変動があったとは認められないから、各年分の期首と期末の棚卸高は同額とした。

(二) 同業者の選定と同業者率の算定は、次のとおりである。

被告、原告の納税地及びこれに隣接する左京、上京、中京、下京、右京、東山、伏見、園部及び宇治の各税務署管内の同業者の内から、本件係争年分で次の条件に該当する青色申告納税者を選んだところ、別表4記載のとおりの申告事例を得た。

(1) 青色申告納税者であること。

(2) 建築材料卸売業を営んでおり、主に左官材料を取り扱っていること。

(3) 他の事業を兼業していないこと。

(4) 売上原価が一〇〇〇万円から五一〇〇万円までの範囲内であること。

(5) 年間を通じ継続して事業を営んでいること。

(6) 不服申立又は訴訟係属中でないこと。

右同業者は、業種、事業規模などの点で原告の事業と類似性が有り、青色申告納税者であるからその数値は正確である。従って、右同業者から同業者率を算定し、これを原告に適用することには合理性がある。

3  原告の本件係争年分の総所得金額は、右算出所得金額から建物減価償却費及び事業専従者控除を控除し、不動産所得金額を加算すれば、別表2記載のとおりとなり、本件処分額を上回っている。

(一) 建物減価償却費は、原告が事業用建物の減価償却に必要な資料を提示しないから、固定資産税の評価額を取得原価とみなして、本件係争各年分につき、別表5記載のとおり算定した。

(二) 事業専従者控除は原告の妻である竹内芳恵にかかる控除額である。

(三) 不動産所得金額は、原告が確定申告した額である。

4  よって、本件処分は適法であり、原告の主張するような違法はない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1前段の事実は認め、中段と後段は争う。被告の部下職員は本件係争年分の所得税の調査のため、昭和五七年八月初旬頃に原告の店舗を訪れ、同月三〇日及び同年九月七日に原告方に臨場したものの、原告が信頼して日常的に税務相談をしている民商事務局員等の立会いを求めたのに対し、「立会いは守秘義務違反になるので、調査はできない。税務署側で、得意先、仕入先調査をさせてもらう」と言い捨てて立ち去り、また、同月八日には電話で原告に対し

「収支明細を見たい」と申し入れ、同月二八日、同年一〇月二〇日、同月二九日及び同年一一月一一日にも原告方に臨場し、帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めたが、いずれも民商事務局員の立会いを拒否して、調査を尽くさなかったものである。

2  抗弁2の事実中、仕入金額は認めるが、その余は否認し、推計の合理性は争う。原告は建材小売業者である。

3  抗弁3の事実中、事業専従者控除及び不動産所得金額は認め、その余は争う。

五  原告の再抗弁

原告は、事業のための借入金の支払利息として、昭和五四年分一九万〇〇四二円、昭和五五年分二四万九〇四五円、昭和五六年分二四万一二九八円を支払っている。

六  再抗弁に対する認否

原告主張の支払利息は否認する。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。

理由

一  原告が肩書住所地において建材(左官材料)販売業を営み、本件係争年分の確定申告をしたこと、被告が本件処分をしたこと、原告が本件処分に対し異議申立及び審査請求をしたこと、以上の経過と内容が別表1記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  本件処分と推計課税の必要性

原告は、被告の部下職員が調査の理由を開示せず、かつ、第三者の立会を拒んで十分な調査をしなかったから、本件処分が違法であると主張する。

しかし、被告の部下職員が本件係争年分の所得税の調査のため、昭和五七年八月三〇日及び同年九月七日に原告方に臨場し、また、同月八日には電話で原告に対し、「収支明細を見たい」と申し入れ、同月二八日、同年一〇月二〇日、同月二九日及び同年一一月一一日にも原告方に臨場し、帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めたこと、にもかかわらず、原告において民商事務局員の立会いを求めて調査に応じなかったことは原告の認めるところであり、そうとすれば、このように原告が帳簿資料に基づいてその事業内容を説明せず、調査に協力しなかったからには、被告が反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をするも止むを得ないものがあったと言うべきであって、原告の主張するところは、推計を違法ならしめる事由とはならず、本件処分にこの点での手続的瑕疵はない。立会いを求められた民商事務局員が原告の信頼し日常的に税務相談をしている者であったとしても、その立会いを許すか否かは一次的には調査担当者の裁量によることであって、その立会いを拒んだことが違法であったと認めるべき特段の事情は窺えず、「立会いは守秘義務違反になるので、調査はできない。」としたことをもって調査を尽くさなかったものと認めることはできない。

三  推計の合理性と所得金額の認定

1  原告の仕入金額が別表3記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  同業者所得率及び算出所得金額について

(一)  証人西岡達雄の証言により真正に成立したと認める乙一号証の一ないし一〇、二号証並びに同証言によれば、被告が、被告主張のとおりの基準で別表4記載のとおり同業者の申告事例を選定したことが認められる。

(二)  証人竹内芳恵の証言によれば、原告の販売先は左官屋と工務店であると認められるから、右乙二号証により原告は建材(左官材料)卸売業者であると認めるのが相当である。

(三)  そうすると、被告が選定した別表4記載の同業者は、その選定基準に照らし、業種、事業場所、規模などが原告の事業と類似していると認められ、かつ、無作為に抽出されたもので、青色申告納税者でその数値は正確であると認められるから、これら同業者から売上原価率及び一般経費率を算定し、これを原告に適用することには合理性があり、これに基づいて原告の本件係争年分の算出所得金額を計算すると、別表2記載算出所得金額欄のとおりとなること、計数上明らかである。証人竹内芳恵は、原告の主な取扱商品が袋セメントで、その粗利益率が一〇パーセント位であると証言するけれども、同証言により記載されていたと認められる仕入及び売上関係帳簿類の提出もなく、右粗利益率についての証言はたやすく採用できず、右認定を左右するに足る証拠はない。

3  特別経費について

(一)  被告は、建物減価償却費として別表5記載のとおり算定したと主張するところ、成立に争いがない乙一〇号証の一及び弁論の全趣旨によれば、被告主張の建物減価償却費が認められ、これ以上の償却額を認めるに足る主張立証はない。

(二)  事業専従者控除及び不動産所得金額は、当事者間に争いがない。

(三)  原告主張の支払利息

成立に争いがない甲一号証、乙一〇号証の一及び証人竹内芳恵の証言によれば、原告は昭和五三年五月二七日に訴外京都中央信用金庫から倉庫建築資金等として金四〇〇万円を借り入れ、その利息として別表6支払利息欄記載の支払利息を支払ったことが認められ、これ以上の支払利息を認めるに足る証拠はない。

4  以上によれば、原告の本件係争年分の事業所得金額及び総所得金額は、別表6記載のとおりとなり、本件処分は、その範囲内であるから、被告が原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法はない。

四  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)

別表 1

課税処分の経過等

〈省略〉

過少申告加算税の額は、54年分につき2万0300円、55年分につき1万8300円、56年分につき2万7200円である。

別表 2

総所得金額の計算

〈省略〉

別表 3

原告の仕入金額

〈省略〉

別表 4

同業者の売上原価率及び一般経費率の明細表

〈省略〉

別表 5

減価償却費の計算

〈省略〉

別表 6

総所得金額の計算(当裁判所の認定)

〈省略〉

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